現場で作業中になんだか目眩を感じて、「あ、ちょっと気分が悪いのかな」と思っていたら、後ろで設備屋さんが
「俺酔っ払ってないよね?」
と誰に聞くともなく言っている。
「んな事知るかい」
と心の中で突っ込み、作業を続けていたが、目眩が治まらない。一瞬経ってから設備屋さんの言葉の意味を理解し、地震だと気付いた。
かなりの揺れにみんな大騒ぎとなり、外に飛び出した。
「スゲぇ揺れてる!」
「船の上みたいだ!」
と口ぐちに叫んでいたが、その後揺れは治まり、皆少し興奮しつつ「津波来るんじゃねえの!」などと喚きながら仕事を再開し、仕事を終え、帰った。
東北で相当大きな地震が起こった事は現場でラジオで聞いていたので、テレビで早く詳しく見たいと思って帰ってみたら、なんとテレビが地震で倒れて画面にヒビが入っているではないか!電源を入れてみると、音だけは聞こえるが画面は見えない。「ああ~、家が流されています!」などと言っているが見えないので良く分からない。あきらめて不貞寝し、次の日も仕事をし、ちょっと一、二、三杯くらい引っ掛けてから帰宅し、その後僕がテレビを買って映像を見たのは地震後2日経った日曜の夕方だった。
テレビを家で接続してから4,5時間、僕はテレビで流れる津波の映像に釘付けだった。
信じられない。車ってあんなに軽々と流れるのか?町が丸ごと流されるなんてあり得んのか?まるでパニック映画だ。
完全にナメきっていた。地震直後に軽く興奮しながら作業していた今の現場はベランダから太平洋が一望できる。海岸まで徒歩で5分弱の距離にある。
昨日酔っ払って呑気にイビキを掻いていた僕の家は、走れば20秒くらいで海にジャンプインできる程海の近くだ。下手すりゃ二日酔いになる前に海の藻屑になっていたかもしれない。
テレビを買った日の夜、僕は再三発令されていたのにシカト決め込んでた大津波警報に初めて恐怖を感じ、ビビって海から少し離れたコンビニの駐車場にプチ避難した。その日から今日まで、夜は少しの不安を感じながら落ち着かない時を過ごしている。
全くと言っていい程被害の無かった南房総に住む僕でさえ不安を感じるのだ。東北の被災者の方たちの感じる不安は計り知れない。身内が行方不明な方、家を流されてしまった方、目の前で家族を津波にさらわれてしまった方等の無念さは想像を絶する。考えただけで胸が痛む。一人でも多くの人が助かって欲しい。一日も早く元気になって頂きたい。
原発の事故により今回の震災は単なる自然災害とは違う様相を呈してきている。可能になれば復興支援に現場に行けたら、とも個人的には思っていたが、放射能に汚染されてしまうとなっては恥ずかしいけども気勢も下がる。「そんなの関係ねぇ!」とは言えない。
どうにかそうなる前に、汚染を食い止めてくれ、と無力にも祈る他無い。
何かできたらと思いつつもほとんど何もできずに一人でなんだか申し訳無い気分にもなってしまうけども、無くなった沢山の方達の御冥福を、一人でも多くの不明者の救出を、原発の一刻も早い事態収拾を心から、切に、願うばかりだ。
(大工い)
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